Spica BLOG

**本と乙女ゲーと雑記のブログ**

『ふったらどしゃぶり』同人誌

本編『ふったらどしゃぶり』では一顕の人として、恋人としての魅力がふんだんに伝わってきて、だからこそ彼が彼女との間に抱える問題は気の毒だなと思ったし、彼女も一顕のことをとても大切にしていているけど同棲生活の中で家族のような安心できる存在になってしまったことも理解できます(彼女の場合、家庭環境も大いに影響しているんだろうけれど)。きっと一顕が整と出会っていてもいなくても早かれ遅かれそこで乗り越えられずに終わりを迎えていたかもしれないとも思えます。
一方の整と和章の関係は和章の性格を考えるとどんなif条件でも恋人になるという道はなかったんだろうな、と。
そんな一顕と整の本編のその後が5冊の同人誌で読めると知り、手をつくしツテを尽くして(苦笑)手元に取り寄せました。本編が好きなら読んで損はないです。5冊の同人誌はほぼ時系列に沿っていて、本編に収録されている『ふったらびしょぬれ』で描かれた8月末から翌年の6月(社内旅行)までの期間、ふたり仲が心身ともに深さを増していく様子が描かれています。


同人誌『秋雨前線』
この1冊を通して整の魅力がすごい勢いで伝わります。本編では和章との閉じられた世界の中にいた整が描かれていたので、その後が書かれている同人誌では整本来が持つ愛情深さや人を翻弄する魅力が鮮やかに描かれてます。男前な受に弱い私としては整の口調やスパッと思い切れる言動は魅力的に見えたし、そんな整が一顕に溺れていく姿は5年近く報われない想いを抱いていた整が解き放たれたようにも思えホッとします。3作目の『秋雨前線』で一顕の誕生日に整が用意した招待状とプレゼントが素敵。雨が降らなかったらどうしたんだという問いに「大切な日はいつも雨だったから」と答えた整は、きっとそんな心配すらしていなかったんだろうし、そうサラリと言ってしまう整の姿は一顕にはものすごく愛しく見えただろうなぁ。
一顕については本編でも魅力が満載でしたが、整と付き合うようになって深爪ギリギリで切りそろえられるようになった理由がもう愛情だなぁと。それにきちんと気が付いている整も素敵ですが。5作目の『雨の日と日曜日は』で引越しの際、ダブルベッドを購入した一顕の願いのような想いには、彼が終わった恋で負った傷の深さを感じられてホロッとしました。ちょこちょこと登場する同期・足立がいい味だしています。 表紙には整と一顕が描かれていますが、久々に表紙の美しさにうっとりする同人誌に出会いました。


『ハートがかえらない』
師走の日常。仕事も御用納めに向けて忙しくなり、心身ともに疲れ果てて整を素直に欲しがる一顕がかわいい。いつもはちょっと不安定なところがある整を一顕が余裕を持って見守っている形だから立場が逆転していて新鮮。そんな一顕の大変さをわかっている整が手を変え品を変え(笑)彼を癒そうとする姿が微笑ましくて。とある出来事で永遠に整を失うかもしれないと感じた一顕は、整が両親を突然いっぺんに失った時に抱えた恐怖の一端をその時に実感を持って理解し、それと同時に自分の中の整の存在のかけがえなさを思い知ったんだと思う。
実はこの『ハートがかえらない』で私が一番萌えたのはお互い深夜残業途中のリフレッシュルームで、ネクタイを緩めシャツのボタンをはずして整の首筋や鎖骨に一顕がキスしているシーン。唇にキスするより一顕が整を欲しているのが伝わってきてドキドキしました(笑)。


『LIFE GOES ON』
師走の様子を描いた『ハートがかえらない』に続きお正月を過ごすふたりのお話。整に魅了されてしまった人はきっと彼の言動に翻弄されるけれど、それでもきっと手放したくないと思ってしまうような媚薬のような存在が整だと思う。
整視点の職場の通夜葬儀の出来事を描いた『LOVE GOES ON』は、洗練された印象の秘書部の同期の女性の恋情がグロテスクな鮮やかさを見せている。自分と一顕も近しい存在を悲しませて一緒にいる現在があるとわかっている整だから、彼女へのまなざしはやさしい。そんな彼女が整にかけた言葉を、一顕と一緒に過ごすようになって変わった自分を認められたようで嬉しいと思う整。恋って相手に影響を与えたり与えられるものだから、それを素直に整が喜んでいて私も嬉しかったりします。


『泡と光』
5冊の同人誌の中で唯一チクリとした1作目の『あわ』。どちらかといえば軽くて遊んでいるイメージの足立が早々に結婚して一児の父に。社内旅行先で子供に向かって電話で話しかける足立の姿やその後の足立の言葉に、同性と付き合っている自分が大きな群れから離れたことを一瞬感じる一顕。すぐに「整がいるからいいや」と思うのですがそのシーンを読んで私が思ったことは、一顕が一抹の寂しさを感じたことを整は知らないままでいてほしいなということ。だつてきっと整はそういう寂しさを感じないだろうと思うから。和章を好きになる前は整も女の子と付き合っていたけれど、社会人となり結婚を考えられるような年齢になってから女性とそういう付き合いをしていなかった整は、結婚まで考えていた同棲相手がいた一顕のような発想はない気がします。
2作目の『ひかり』は久々の和章×柊の『ナイトガーデン』カップル。和章のことは決して嫌いではないんですが、理解できないところが多くて。ズボラな私はきっと和章のような人が近くにいたら疲れちゃうというか(笑)。融通が利かないけど、きちんと自分を持っていて誠実な和章が柊をきちんと求める言葉を口にできるようになっただけでも大きな進歩だと思う。だってそれ以外(生活スタイルやこだわり)の譲歩はしそうもないから(苦笑)。
3作目の『In The garden』は『ナイトガーデン』の時間軸と少しリンク。恩師の家に焼香に訪れた整と平岩を出迎えた柊。そして恩師の書斎に入った整はその書棚を見て、それが和章の手で整理されたものだと確信。瞬間に和章の仕事だとわかる整もすごいけど、書棚の整理の仕方で自分の存在をわからせてしまう和章の仕事の仕方ってどれだけ緻密で正確なんだろう。少し怖い(苦笑)。
表紙は和章と柊。でも裏表紙の一顕と整がそれ以上にほんと素敵。


『恋をする/恋をした』
一顕が結婚式の2次会の代打幹事を引き受けた2月から4月初めの当日までの日々。丸々整視点で描かれる今作は一顕同様に代打幹事を引き受けた女性が一顕と連絡のため交わすLINEのやりとりや、偶然(足立のツイッターのフォロワーから)見つけた彼女のツイッターのつぶやきを通して、整が一途に一顕を求める姿にドキドキします。彼女のLINEやつぶやきから見えてくる一顕は、整やその女性じゃなくても惚れるだろうと思えるくらい誠実でありながら気を持たせるようなそぶりはみせないいい男で。一顕に恋するその女性の目を通して改めて恋をして、そんな日々の中で整が見つけた「ごめんね。でもあげない。大好きなんだ。春が来たら返してもらうから。」という真っ直ぐな想い。ずっとずっとこの二人の恋を見ていたいけど、ここで終わりでも安心できる、そんな明るい読後感の1冊でした。